■麹菌ゲノム解析
麹菌の電子顕微鏡写真 |
| 麹菌は、しょうゆをはじめ、みそ、日本酒の生産にも利用され、日本人の食生活に深く関わってきた微生物であり、「国菌」とも呼ばれています。麹菌の育種や菌株の改良は、品質や生産性の改善を目的として古くから行われてきましたが、従来の研究手法では膨大な手間と時間がかかっていました。 そこで、新たな可能性を探るため、日本の国菌である麹菌のゲノム解読を日本人の手で行おうと、当社を含む日本の研究機関が産官学連携でコンソーシアムを結成し、2001年から麹菌ゲノムの解読に取り組みました。これまでに、麹菌のゲノムは3,900万塩基からなり、約1万個の遺伝子が存在することが明らかにされました。 現在では、コンソーシアム参加研究機関が中心となり、ゲノム情報を基にしたポストゲノム研究が精力的に進められています。麹菌は、原料中のタンパク質を分解するプロテアーゼやペプチダーゼ、旨味成分であるグルタミン酸を生産するグルタミナーゼ、デンプンを分解するアミラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を大量に生産します。今後、ポストゲノム研究によってこれらの酵素遺伝子の構造や発現のメカニズムがわかれば、品質や生産性の向上だけでなく多様な製品の開発につながると期待できます。
■アフラトキシン非生産性の解明
アフラトキシンB1 |
| アフラトキシンは、Aspergillus flavusやA. parasiticusといったAspergillus属菌の一部で 生産されるカビ毒で、天然物最強といわれる発ガン性を有しています。これらアフラトキシン生産菌は、醸造用麹菌であるA. oryzaeやA. sojaeと分類上近縁であることから、醸造用麹菌もアフラトキシンを作るのではないかと疑われていました。 当社では、1960年代からこの問題に取り組み、まず、麹菌がアフラトキシンを作らないことを証明しました。また、分子生物学的見地からもアフラトキシン問題に取り組み、(1)アフラトキシン生合成を促進する信号伝達系は機能を失っている、(2)アフラトキシン生合成酵素の発現調節因子は機能を失っている、という少なくとも2つの機能不全によって、麹菌はアフラトキシン生合成能を失っていることがわかりました(図1)1~3)。この結果から、しょうゆ麹菌はアフラトキシン生合成に関して安全であると結論し、しょうゆの安全性を改めて世界に示しました。
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図1.アフラトキシン非生産の仕組み |
(1)アフラトキシン生合成誘導の信号伝達に欠陥 (2)アフラトキシン生合成に必須な調節因子に欠陥 | |
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《引用文献》 |
1) |
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Matsushima, K. et al.: Pre-termination in aflR of Aspergillus sojae inhibits aflatoxin biosynthesis, Appl. Microbiol. Biotechnol., 55, 585-589 (2001) |
2) |
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Matsushima, K. et al.: Absence of aflatoxin biosynthesis in koji mold (Aspergillus sojae), Appl, Microbiol. Biotechnol., 55, 771-776 (2001) |
3) |
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Takahashi, T. et al.: Nonfunctionality of Aspergillus sojae aflR in a strain of Aspergillus parasiticus with a disrupted aflR Gene, Appl. Environ. Microbiol., 68, 3737-3743 (2002) |
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